さて、前回はマウスピース矯正もワイヤー矯正も同じ矯正治療であることお伝えしました。
そこで今回は、それぞれの特徴や特性ついてお話ししたいと思います。
端的に言えば、ワイヤー矯正は
「全ての歯の表面または裏面に接着された装置を使って、ワイヤーの力で歯を移動させる」方法、
マウスピース矯正は
「必要な部分にレジンで凹凸を付けた歯を、プラスチック製マウスピースの力で移動させる」方法、
この様に表現できると思います。
では、両者の特徴を比較してみましょう。
審美性や清掃性、異物感については、マウスピース矯正の方が優れています。
治療効果の本人依存度について、ワイヤー矯正は依存度が低く優れていると考えられます。
また、装置の物理的特性からみますと、マウスピース矯正システムの成熟によって両者の差は縮まりつつも、やはり金属であるワイヤーによる歯のコントロールの方が依然として守備範囲が広いことから、様々な症例に対して適用できます。
マウスピース装置には得意な歯の移動様式と苦手な歯の移動様式がありますので、その特性を十分に理解していることが重要です。
一方で、装置の形態的特徴からみますと、マウスピースは歯冠全体を覆う形状を有していることから、ワイヤー矯正とは違った力学的特性を発揮できる反面、歯の形態によって得意不得意があり、マウスピースで掴みにくい歯ではコントロール性が下がることも知られています。
矯正治療に際しては、各装置の特徴を踏まえて装置を選択することが、治療目標の達成に重要であると私は考えています。
例えば、本人の希望からも、診断結果からもマウスピース装置が第一選択だった場合、私はその方のライフスタイルに合うかどうかを必ず確認する様にしています。
マウスピース矯正では、治療結果に対する本人依存度が極めて高く、本人が装置を使用しなければ不正咬合は決して改善しません。
そこで、改めて客観的にご自分の社会生活環境を見つめてもらい、1日あたり20時間に及ぶマウスピースの使用が可能かどうかを確認します。
もしもその時点でライフスタイルに適合していなかったとしても工夫する余地があれば大丈夫です。
ただ、難しいと判断される場合には、装置の選択を再検討せざるを得ません。
判断を見誤れば治療が成功する見込みが低くなりますので、いかに冷静に、客観的に判断ができるかどうかが鍵となるでしょう。
そこまで慎重に相談や検討をしても、治療を始めてみないと分からないことがあるのも事実です。
例えば、事前には分からなかった事でライフスタイルに装置が合っていなかった、想定外に歯が動かなかったり想定外の歯の動きがあった、金属アレルギーを発症した、装置が体に馴染まなかったなど、私もこれまでに数多くの経験をしてまいりました。
では、それら想定外が起こった場合はどうするのか。
そこで大切になるのが、治療手段を複数備えているか、それを想定して実行できる知識とスキルを持ち合わせているか、であると私は考えています。
矯正治療を成功に導くには、科学的根拠に裏付けされた技術を総動員して手を尽くすことが大切です。
そのためには、専門的知識と技術をもとに、複数の治療手段、手法、装置を偏ることなく取り扱えることが必要です。
特に、世間ではマウスピース装置とワイヤー装置は対立するものとして語られることが多い気がします。
しかし、繰り返しますがこれらは矯正治療の手段にすぎません。
精度の高い矯正治療を責任を持って行うためには、両者の特徴を利用して使い分けることが何より大切でしょう。
矯正歯科医
山田 聡